表面利回りに騙されるな:実質利回りを支配する「見えないコスト構造」の正体

不動産投資の構造

不動産投資の物件情報を眺めていると、まず目に飛び込んでくるのが「利回り◯%」という数字です。

「銀行に預けるよりずっといい」「これなら数年で元が取れる」 そんな期待を抱かせる数字ですが、実はこの「表面利回り」ほど、投資判断においてアテにならない数字はありません。

今回は、金融市場の分析で培った視点から、不動産収益の「真の構造」を解剖します。


1. 表面利回りと実質利回りの「構造的な乖離」

まず、多くの広告に掲載されている「表面利回り(グロス利回り)」の計算式を確認しましょう。

  • 表面利回り = 年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100

この式には、物件を維持するために絶対にかかる「運営コスト」が一切含まれていません。FXで言えば、スプレッドや手数料を無視して利益を計算しているようなものです。

一方で、私たちが本当に見るべきは「実質利回り(ネット利回り)」です。この二つの数字の間には、初心者が見落としがちな「見えない壁」が存在します。


2. 収益を食いつぶす「4つのコスト構造」

実質利回りを計算する際、必ず差し引かなければならないコストが4つあります。これこそが不動産経営の骨組み(ストラクチャー)を決定づける要素です。

① 建物管理費・修繕積立金

マンション一棟や区分所有に関わらず、建物の維持には毎月決まった費用がかかります。特に修繕積立金は、築年数が経過するごとに段階的に上昇する構造になっているケースが多く、長期的なキャッシュフローを圧迫します。

② 固定資産税・都市計画税

所有しているだけで発生する「保有コスト」です。これは空室であっても関係なく徴収されるため、固定費としてのインパクトを正確に把握しておく必要があります。

③ 空室リスクと広告料(AD)

家賃収入が100%入ってくるという前提は、分析上は「幻想」です。退去後のリフォーム代や、次の入居者を決めるための広告料、そして空室期間の損失。これらを期待値として計算に組み込むのがプロの分析です。

④ 管理代行手数料

賃貸管理を業者に委託する場合、家賃の3〜5%程度が引かれます。これも確実なマイナス要因として計上すべき項目です。


3. 分析ロジック:真の利益を導き出す計算式

では、これらを踏まえた「負けないための計算式」を提示します。

【実質利回りの構造式】

(年間家賃収入 - 運営コスト合計) ÷ (物件価格 + 購入時諸経費) × 100

分母に「購入時の諸経費(仲介手数料や登録免許税)」を加えている点に注目してください。ここを無視すると、投資開始時点での正確な資本効率が見えなくなります。


4. 構造分析による物件評価の基準

この計算式を当てはめると、表面利回り8%の物件が、実質的には3〜4%程度まで落ち込むことも珍しくありません。

大切なのは、数字が下がること自体を恐れるのではなく、「その数字の根拠を構造的に理解しているか」です。

  • 表面利回りが高くても、コスト構造が不透明な物件は避ける
  • 実質利回りは低くても、将来のコスト上昇リスクが限定的な物件を選ぶ

これが、金融的な視点による「負けない不動産投資」の第一歩です。


結論:数字の「見せ方」に惑わされないために

不動産業者が提示する数字は、あくまでも「入り口」の数字です。 その裏側にあるコストの骨組み(構造)を自分で解剖できるようになれば、失敗する確率は劇的に下がります。

まずは気になる物件があれば、業者から「年間ランニングコストの見積もり」を取り寄せ、今回の式に当てはめてみてください。


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